【働きビト】Vol.01 『ガリレオ』をヒットに導いたプロデューサー・鈴木吉弘

 俳優・福山雅治の新たな魅力を開花させた『ガリレオ』シリーズ。いよいよ劇場版第2弾となる『真夏の方程式』も公開され、こちらはオープニング週初登場1位と、好発進を切っている。そこで、ORICON STYLE“Career”の新連載コラムでは、全シリーズの企画・プロデュースを担った仕掛け人・鈴木吉弘プロデューサーにインタビュー。仕事との向き合い方を伺った。フジテレビからゲーム会社へ、そして現在はフリープロデューサーと、変化を続けるヒットメーカーの素顔とは?

作品作りの分岐点『月9らしさよりも、自分らしさで勝負』

(C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

(C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

 これまでに木曜10時枠のドラマ『電車男』(05年)や“月9”では『西遊記』(06年)、そして『ガリレオ』(07年〜)と異色の作品を送りだし、ヒットを記録してきた鈴木氏だが、元々は編成プロデューサー。「視聴率や利益を気にする立ち位置の、いわゆる局P。ずっと作品を作る“クリエイティブ・プロデューサー”をやりたかった」と、満を持して30歳で異動が決まった。

 初プロデュース作品となった“月9”らしいラブストーリーの1作目と、方向性を変えて“振り切った”2作目。この2つを手掛けたことが、自身の分岐点だったという。「1本目は、そこそこの数字が取れました。でも、自分の中に『これじゃない』、『個性で勝負したい』という思いが芽生えました。今の部署からお払い箱になったとしても、『鈴木吉弘はコレなんだ』という作品を作ろうと決めたんです」。

 結果、2作目の視聴率が前作を上回ることはなかった。それでも「誰にも作れない色の作品を作った」という手応えを頼りに、鈴木氏は作品作りにおける1つの座標軸を定める。「プロデューサーというバッターボックスに立つことだけに、執着しちゃイカンのです。成績不振で打順が来なくなったとしても、自分で自分自身の価値を見失うよりずっといい」。

“置きに行く作品(仕事)”の当たる確率は?

 希望していた部署に異動が決まった時、普通は“様子を見たい”というのが本音だろう。初めのうちは100点満点を取れなくても、50〜70点の合格点を確保しようとすることは当然だ。しかし、鈴木氏は「及第点を目指した“置きに行く”作品でも、当たる確率なんて半々。それなら、フルスイングで行きたいし、当たれば本当にうれしい」。

 これまで携わってきた作品について「僕の作品は『人間の証明』に『電車男』、『西遊記』とか、変なのばっかりでしょ? 反対されたものもずいぶん有ります」といたずらっぽく笑う。『ガリレオ』シリーズについても「2004年に企画を出しましたが、放送開始は2007年。“科学者が主人公の事件もの”という作品が異色過ぎて、最初は全く受け入れられなくて」と明かし、2006年に『容疑者xの献身』が直木賞を受賞したことで、「実写化への“権利争奪戦”になりました」と豪快に笑った。

仕事現場での優先順位は“人間関係”か“やり甲斐”か?

 鈴木氏にとって、仕事での優先順位は“人間関係”か“やり甲斐”か? この質問に「僕はどちらでもないですよ」とニッコリ。職場での人間関係に悩むのは誰しもであり、だからこそ“気の合う相手”と組むことを重要視することは至極当然ではないのだろうか?

 鈴木氏は少し不遜に聞こえてしまうかもしれませんと前置きし、「今まで仕事をしてきた人と仕事をすることも、新しい人と仕事をすることも、僕はリスクは変わらないと思っているんですよね。そこそこ上手くやります(笑)」と、意外な答え。「知っている人と仕事をして、関係性に甘えたり、ケンカして前に進めなくなることもあるでしょ? それは、新しい人と組む時の不安と、そんなに差はないと思うんですよね」と、サラッと言われて思わず納得してしまう。

『ガリレオ』シーズン2で、監督とヒロインを交代した理由

(C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

(C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

 その言葉を裏付けるかのように、先日最終回を迎えた4月クールのドラマ『ガリレオ』では、前シリーズから監督とヒロインの変更があった。

 1つの作品にとって監督はまさに司令塔。この交代劇は周囲を唖然とさせた。「続編を作るという経験は初めてで、同じモノをもう1回というのは、実はけっこうきつかったんです」と笑顔をみせつつ、「西谷監督とは連ドラを10回、その後映画『容疑者〜』ご一緒して、とても尊敬しています。でも、前回で思う存分やっていただいたと思うんですよね。だから変更を提案しました。監督には『僕のこと、嫌いなの?』って言われちゃって、『とんでもないです』って(笑)」。

 そして、世間から大きな注目を集めたヒロインの交代についても、同様の理由があったことを明かした。しかし、この提案については「(柴咲)コウちゃんが言い出してくれたんですよ。僕とまったく同じ考え方でした。映画の撮影後に談笑していると、続編の話が出たんです。そしたら“次の相棒は私じゃない方がいいんじゃない?”と言われました」。

 柴咲は「湯川先生の隣には、彼を理解できず、振り回されてイライラしっ放しの新人がいい。それでこそ、湯川先生の魅力が引き立つと」と、明確なビジョンを語ったという。「天才ガリレオを理解し始めた薫じゃだめだと思うと言われて、本当に驚いたし“僕らのこと嫌いなの?”って聞いちゃった(笑)。でも、コウちゃんの言う通り。本当に作品を大事に思ってくれているんですよね。撮影が始まると寂しがってくれて、第1話の出演や湯川も登場するコウちゃん主演のスピンオフドラマの企画も決まりました」。

 新しくなければ、意味がない。新しいことを始めるのに、不安が無ければそれは“新しくはない”。「前回を踏まえて、巧く作ろうとする。それじゃダメなんです。若い奴らが“前作を超えてやる”って挑んでこなければ、続編は完成していないでしょうね」。

若い世代を“過保護”にしているようで、実はスポイルしている

 新しい物を創り出すことにこだわり続ける鈴木氏。その原点は、新人時代に先輩がくれたアドバイスにあった。「なぜ新しいものが必要か? 新しいか新しくないかには明確な基準がありますよね。『過去にないもの』。でも、作品の良し悪しは人それぞれで、基準はあいまいです。つまり、そのジャッジに価値はないんです。だったら、価値を見いだせる新しい物を作り続けていかないと」。

 新しいことにこだわるからこそ、後輩の育成にも積極的な一面を見せる。「テレビドラマは20代の若い世代がどんどん生み出していかないと。若い人がドキドキしながら作る現場は見る側もドキドキできる。だから、僕は若い人に育って欲しいからこそ、ほとんど手出しはしません。たとえ初めてのスコアが空振り三振でもいいんです。次にその悔しい経験値がチカラになっているから」と、どこか楽しそうに目尻を下げる。

 その言葉を体現するかのように、シリーズ1の撮影が終わり続編製作ムード漂うなか、鈴木氏はフジテレビを退社した。「約1年『ガリレオ』に携わって“次はあるな”と思いながらも、辞めました(笑)。若い人達で新しい物を作ればいいと思ったんですよね」と、若い力に掛けたい胸の内を吐露。

 「最近は35歳とかでプロデューサー・デビューして、40歳でやっと一人前・・・。でも、それじゃ遅いですよね。立場が上になるほど、もしかしたら自分のキャリアに傷がつかないように成果を重視して、後輩を過保護にしているのかもしれない。でも、それは過保護に見えて実はスポイルしている。何を失敗したのかも見えず、充実感も得られないなんて…」と、ドラマ制作の現場に警鐘を鳴らした。

いよいよ「株式会社 鈴木会社」始動

 フジテレビからゲーム会社へ、そして2011年に「株式会社 鈴木会社」を立ち上げた鈴木氏。新しいフィールドを求める向上心を、保ち続ける秘訣について尋ねると「長い場所で仕事を続けて、甘えや慣れ、飽きたり、楽できることを身に着けることが怖い。だから、場所を変えることで自分自身を奮いたたせているんだと思います」と、前向きな転職の経緯を明かす。今の場所を否定するのではなく、もう一歩前に進もうとする気持ちが転職先で仕事を楽しむコツなのかもしれない。

 新会社については「フリープロデューサーだったから、そのまま会社にしましたけど、まだ実態は無いんです。今後についても未定な部分ばっかりで」と、茶目っ気たっぷりに笑う。「ただ、ドラマや映画を作りながら、もう一方でゲームの仕事もしたいですね」と、とても生き生きとした表情で展望を語る。「小回りのきく規模で、プロデューサーとして色々やりたいです。次はアジア映画と組んで、仕掛けて行きたいな」と、仕事での安楽椅子を求める気持ちは一切なし。常に新しい一歩を踏み出してきた鈴木氏が、次に何を見せてくれるのか? 楽しみに待ちたい。
【プロフィール】
プロデューサー 鈴木吉弘(YOSHIHIRO SUZUKI)
ドラマ『電車男』、『西遊記』などを手掛けたヒットメーカー。『ガリレオ』シリーズを企画から担当。現在はフリープロデューサーとして活躍中。
  • (C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

    (C)2013 フジテレビ アミューズ 文藝春秋 FNS27社

映画『真夏の方程式』

出演:福山雅治、吉高由里子、北村一輝、杏、
山崎光(※山崎の“崎”は右側が「立」)、前田吟、他
原作:東野圭吾(「真夏の方程式」文春文庫刊)
脚本:福田靖/音楽:菅野祐悟、福山雅治/監督:西谷弘

■公式HP:http://www.galileo-movie.jp/(外部リンク)
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