【働きビト】Vol.11 大泉洋の仕事論「どんなにボロボロでも続ける美学」

 北海道の劇団『TEAM NACS』の看板俳優として活躍する一方で、バラエティ番組『水曜どうでしょう』など、お笑い芸人並みのポテンシャルと瞬発力で、視聴者を楽しませる俳優・大泉洋。今や年に何本も主演作が公開されるなど、押しも押されもせぬ人気俳優となった。今回は最新作『青天の霹靂』の公開を控え、撮影秘話に始まり、役者として上京を決めた転機も告白。「常に辞表を懐に入れている」という俳優としての顔、多くにファンに愛されるバラエティの顔。二束のわらじを履き続ける、大泉洋の“素顔”とは?

疑問を持ったら監督にフラットに質問「出来ませんとは、 言いたくない」

―― 映画『青天の霹靂』は、何をやっても上手くいかない主人公・晴夫が、希望と自信を取り戻していく物語。冒頭で人生に腐っている姿は、普段の大泉さんと真逆のキャラクターに見えました。
大泉確かに。晴夫は、人生で何をしてもうまくいかなくて、それを両親のせいにしている人。でも僕は、両親からすごく愛情を掛けてもらったし、言い訳できないぐらいにキチンと育ててもらったんです。仕事に関しても、ありがたいことに、自分の実力以上に周りから認めてもらってきたので、真逆と言えばそうですね。

―― そんな正反対のキャラクターを演じるときには特別な役作りがあるのでしょうか?
大泉分かり易い役作りは特にないね。僕は役者として、与えられた設定の中で、想像して、役のことをとことん考えるだけです。ただ、冒頭から最後のシーンまで役の気持ちを繋げて考えた時に、何か“疑問”を持ったら、それを監督に尋ねることはありますよ。

 役者として「できません」とか「言えません」とは、言いたくないんです。人の行動に絶対なんてないですからね。だから、フラットな気持ちで監督に質問します。その役になって言えば気になる事も観客にとっては何の疑問も抱かないシーンかもしれないので、説明を伺ってそのまま撮ることももちろんあるんです。僕の意見が間違っていることもあるし、逆に監督が気づいてくれることもある。とにかく話すことを大切にしています。

名シーンは大泉発信! 疑問をプラスに変える想像力

映画『青天の霹靂』より

映画『青天の霹靂』より

―― 監督に俳優さんから意見を出すというのは、滅多にないことでは?
大泉例えばこの作品だと、晴夫が母・悦子(柴咲コウ)の病室を訪ねた後に、一人で土手を歩くシーンがあるんです。最初の脚本だと、晴夫は歩きながら父・正太郎(劇団ひとり)が母に贈ったペーパーローズを持っていたとなっていました。これは、つまり晴夫は病室で母に「この花ください」ってお願いしたことになりますよね。でも、僕は“晴夫はそれを下さいと言うかな?”と思ってしまうんです。多分観客はそこまで気にならないと思いますけど。

―― なるほど。父からの贈り物であるペーパーローズを飾って、とても大事にしている母の気持ちを知る晴夫が、その花をもらって病室を去るのは心の動きとして不自然かもしれないと?
大泉ただし、あのシーンで必要なアイテムなんですよね。だから監督と一緒に考えて、晴夫が自分で折りながら歩くことになりました。そういうケースもあります。変更してもしなくても、意見を出し合って考えることは、結果的に作品にとってはプラスになりますよね。

―― 大泉さんご自身が「長編作品を撮ろう」というお気持ちは?
大泉この作品に出るまでは、全くなかったんです。でも、すぐそばで監督・劇団ひとりの才能を見せてもらって、「自分もやってみたい」という気持ちが芽生えましたね。もう撮影しているときから“これはいい作品になる”という予感がありましたから(笑)。本当に素晴らしい監督です。

役者とバラエティを並行して続ける理由「どちらも不可欠な要素」

―― 俳優として活躍を続けられる一方で、北海道では『水曜どうでしょう』、『ハナタレナックス』、『おにぎりあたためますか』『1×8いこうよ』と、など、バラエティ番組もずっと続けていらっしゃいますよね?
大泉僕にはバラエティも必要なんです。お芝居もバラエティも、どっちもないとバランスがとれない。役者だけやってたら、バラエティがしたくなる。バラエティばかりを詰め込めば、きっと芝居が必要になるんです。

―― それぞれの仕事に、良い反動がつくということでしょうか?
大泉そうですね。どちらも僕にとっては必要不可欠な要素。今はすごくいいバランスでお仕事をさせてもらっています。ただ、僕がバラエティに出ているときは、基本的にボヤきキャラ(笑)。北海道に帰って、自分の番組でスタッフやメンバーに向かって「冗談じゃないよ君たち! 僕はドラマや映画で忙しいんだよ!」と散々ボヤきながらも、全身タイツをしっかり着ているのが好き(爆笑)。内心はうれしいんですけどね。

ユルく楽しくが持論の20代から一転! 厳しさを自分に課した上京の真相

―― 北海道のラジオやバラエティ番組で引っ張りだこだった20代を経て、お芝居で東京進出。何か舵を切るきっかけがあったのでしょうか?
大泉30代に入って、東京での俳優の仕事が増えていきましたけど、大きく舵を切ったというわけではないんです。今思えば、僕が踏み出した唯一の一歩は、大学で演劇研究会に入ったこと。そこから次の舞台、また次の仕事と、とんとん拍子に繋がっていって、在学中に『どうでしょう』も始まり、あっという間に北海道での知名度も上がりました。

―― それでも“お芝居の道”に進むことを決められたのはなぜですか?
大泉当時の僕は、ナックスの舞台が年2本、ラジオのレギュラーも7〜8本を抱えていて、この先も北海道でずっとバラエティを続けていくことに、まったく不満はなかったんです。でも、30代に差し掛かった時に、この先もこの良い状態を維持できるのかなという、漠然とした不安が生まれたんですよね。

 以前の僕の座右の銘は、「人生 半身浴」(笑)。そんな言葉はないけど、どんなことに対しても、背伸びをしてもしょうがないと思っていたし、「東京で勝負しよう!」という気持ちもなかった。だって、北海道ではみんなが僕を知ってくれて、仲間がいて、いい番組、お仕事がある。このすべてを捨てて、より苦しい所に自分を追い込んでいくことは、考えられなくて。だから、自分のできる事だけをユルく、楽しくやればいいというのが持論でした。

 でも、果たして現状に満足している僕が、ずっとこの良い状態を維持できるのかと思ったんです。今に満足しているような奴を、この先何十年も、北海道の人は観続けてくれるだろうかと考えた時に、何かを頑張らなくちゃと。そこで「お芝居を、もっと、きちんと続けたい」と思い、東京での仕事も始めました。

役者を続ける覚悟「ポケットには常に辞表を入れて」

―― 映画やドラマの現場では、ファンを喜ばせるために“メイキング映像まで手を抜かない”という大泉さんですが、俳優業のモチベーションはファンへのサービス精神もあるのでしょうか?
大泉DVDやblu-rayに収録されるメイキング映像は、ファンの人たちにとってすごく大事な特典だし、喜んでもらうために全力を尽くしています(笑)。でも、俳優を続ける理由に“ファンサービス”はないですね。おそらく僕のファンは「洋ちゃんは『どうでしょう』だけやってて! 俳優をやりたい気持ちは分かるけど、その時間があるなら、旅に出てくれ!」と、思っているはずですから(笑)。

―― そんなことないですよ(笑)。舞台も映像も、大泉さんはすごく格好いいです!!
大泉いやいや。役者という仕事は、誤解を恐れずに言えば「うまく出来ない」仕事。やってもやっても本当に難しくて、後悔することも多いんです。だから、この先いつか、自分で見切りをつけなきゃいけない時が来るかもしれないという、ある種“覚悟”のようなものが、僕にはあります。常にスーツの内ポケットに辞表を入れながら、仕事を続けている感じかな。

 だからこそ、少しでもいいお芝居ができるようになりたいなという想いが、日に日に強くなっていますね。40代になって、よりいい仕事を、落ち着いてやれたらいいなとも思っています。

芝居、ナックス、バラエティ…ボロボロになっても“続ける美学”

―― お話を伺っていると、お芝居でもバラエティでも、何事も“続けるための努力は怠らない”というお仕事への姿勢を感じます。
大泉それはありますね。とにかく続けることを大事にしたい。何かに15年という時間を掛けたなら、それは15年掛かってこそ出来たもの。他の人が、同じ様に同じだけの時間を掛けられるのかといえば、きっと無理だから。僕は時間(継続)に勝るものはないと思っています。

 ナックスも間もなく20年ですけど、例えば「いい時期をみて解散する」という決断もなくはないですよね。その方が「ナックスって面白い劇団だったよね」と、伝説化されることもあるかもしれない。でも、僕は喧嘩しながらでも、ずっと続けていく方が素晴らしいと思うんです。ファンのみなさんだって、どんな形であれ「継続している」以上にうれしいことはないはずだから。

 辞めることを美学とする人もいるかもしれないけど、僕はどんなにボロボロになっても、とにかく続けることを選ぶタイプ。僕みたいな下手くそな役者でも、続けて、続けて、続けて至った先に“何かいいものが出てくるんじゃないか”っていう、淡い期待をしています(笑)。
【プロフィール】
大泉洋
1973年4月3日生/北海道出身。演劇ユニット『TEAM NACS』メンバーとして、舞台、ドラマ、映画で活躍。一方で、『水曜どうでしょう』(HTB)などバラエティ番組にも出演。2014年は主演作『ぶどうのなみだ』、『TWILIGHT ささらさや』が公開予定。
  • (C)2014「青天の霹靂」製作委員会

    (C)2014「青天の霹靂」製作委員会

映画『青天の霹靂』
監督・脚本:劇団ひとり
原作:劇団ひとり「青天の霹靂」(幻冬舎文庫)
出演:大泉洋 柴咲コウ 劇団ひとり、他
主題歌:Mr.Children「放たれる」
公式サイト:http://www.seiten-movie.com/(外部リンク)

【Story】
貧乏マジシャン・轟晴夫(大泉洋)のもとに、ある日、高校卒業以来ずっと絶縁状態だった父・正太郎(劇団ひとり)の訃報が届く。ホームレスとなってのたれ死んだ父の遺品を整理しようと、河原の青テントに足を運んだ晴夫だが、突然、青空を割く稲妻に打たれ、過去へとタイムスリップ。若き日の両親に出会い、そこで自身の出生の秘密と母の愛を知る。お笑い芸人・劇団ひとりが初監督作として送り出したのは、笑いと温かい涙に満ちた感涙作。4ヶ月の猛特訓を経て挑んだ、CGなしの大泉洋のマジックにも注目!
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