【働きビト】Vol.16 長澤まさみ“頑張りすぎない”働き方のルール

 長澤まさみが、第5回「東宝シンデレラ」でグランプリを獲得したのは12歳のとき。以来『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04年)や『タッチ』(05年)など、数々の青春ドラマで憧れのヒロインを好演し、清純派女優としてその名を轟かせた。近年は大人の色気をまとった役どころで新境地を切り拓き、カンヌ映画祭で喝采を浴びた『海街diary』(15年)では、数々の助演女優賞を受賞した。キャリアを重ねてますます輝く彼女に、手に汗握るアクションに挑んだ新作映画『アイアムアヒーロー』(4月23日公開)の話を中心に、仕事との向き合い方について伺った。

ずっとやりたかった、アクション挑戦は「すごく楽しかった」

――映画『アイアムアヒーロー』で主人公・鈴木英雄(大泉洋)と共に、謎の生命体“ZQN(ゾキュン)”と戦う、元看護士の藪を演じた長澤さん。作中のシャープ&タフなアクションにシビれました! 特別な準備をしてから撮影に臨まれたのですか?
長澤まさみこれまでわりと運動神経の悪い役とか、鈍臭い役が多かったので、そういう印象があるのかもしれませんが(笑)、もともと運動神経はそんなに悪くもなくて、体力も結構ある方なんです。アクションは好きで、ずっとやりたいなと思っていたので今回はすごく楽しかったです。もっとやりたかったくらい。

――無数のZQNとの攻防戦を繰り広げるクライマックスシーンなど、主要シーンの撮影は、韓国で行われたそうですね。
長澤今回参加してくださった韓国の特殊メイクチームは、世界でも指折りの方たちなんです。彼らが作り出すZQNは本当にリアルで、高跳びZQNなんて漫画の画が動き出したみたいに完璧でした。演じていたのは韓国のダンサーの方だったそうですが、(ほかのZQN役の)エキストラのみなさんからも役者としての自覚、自我のようなものをすごく感じて。一緒にお芝居をしていて、いい刺激になりましたね。
――血まみれになりながらも、藪たちはなぜ最後までZQN と戦い続けることができたと思いましたか?
長澤男らしくサバサバした印象のある藪ですが、彼女のいいところって、映画のような危機的状況にあっても、まず人のことを考えちゃうところだと思うんです。仕事が看護師だったことからも、母性のような、そういう部分を大切にしながら演じたつもりです。

――もし長澤さんが本作のようなシチュエーションに陥ったら、どんな行動を取ると想像しますか?
長澤うーん。とりあえず逃げて、逃げ切れなかったらやれるところまで戦って、それでもZQNになったら、ZQNを楽しみたいと思いますね。今回やってみて、パニックムービーってホラーっていうよりは、コメディに近い楽しさがあるんだなって思ったので(笑)

人生が続く限り、いつでもチャンスはある

――やれるところまで、戦うつもりなんですか!?(笑)
長澤諦めなければできるんじゃないかな? 何事も結局、それに尽きますよね。諦めちゃったら、そこですべてが終わるのかなって。“火事場の馬鹿力”って本当にあると思いますし、諦めさえしなければたぶん大丈夫(笑)。人間って自分が思っているよりも、もっと成長する生き物だと思うんです。それは女優業をやっている中で、私自身も常に感じていて。何かをひとつ成し遂げただけでは、人生って終わらない。そう考えると、死ぬまでの間に何でもできそうな気がするというか。まぁ死んでしまったら終わりですけど(笑)

――そのタフな考え方は、どのように身につけられたのですか?
長澤芸能界って、いい意味でも、悪い意味でも注目を浴びる世界だと思うんですけど、ブームが過ぎたからってその人の人生が終わったりはしないんだなって。人生が続く限り、いつでもチャンスがあるんだって私は思うから。人間は変わるものだし、変われるものだということを自分自身が理解していれば、物ごとをもっとうまくまわしていけるんじゃないかなと思います。

やりたいことと求められているギャップに悩んだ時期も

――今年でデビュー17年目になりますが、キャリアを積み上げていく中で思い至った境地なんですね。デビュー以来ずっと第一線で活躍されていますが、スランプに陥ったことはありますか?
長澤23歳のときに、中学の同級生たちが就職活動をしているって聞いたら、なんだかちょっとうらやましくなって。「これから社会人1年生か…」なんて思ったら、なんだか疲れてしまって。少し働くのが面倒臭く思ってしまった時期はありました(苦笑)

――どのようにして、気持ちを立て直したのですか?
長澤そんなに大層なことじゃないんですよ! 仕事を辞めたいと思ったことは、それまでにもたくさんありますし(苦笑)。そうですねぇ、責任感で続けてきた感じかな。
――ちょうどその頃から、『モテキ』(11年)をはじめ、それまでの清純派のイメージを一新して、お仕事の幅がグンと広がった印象を受けました。ご自身の中で、仕事への向き合い方に変化はありましたか?
長澤自分的にはあまりないんですけどねぇ。…比較的昔から 自分がなりたい役や、やりたい作品のイメージが明確にあるタイプだったんですよ。だけど、自分の通ってきた道は、自分の思っている方向性とは違っていたから、そういうところでもがいていた時期もありました。でも今だって、自分のやりたいことができているか?と聞かれたら、まだ全然できてないと思うし。できちゃったら満足して、女優を辞めるかもしれない(笑)

――本谷有希子さんや三谷幸喜さんら、カリスマ演出家の舞台作品にも参加されるようになりましたね?
長澤舞台は自分への試練です。舞台って難しいし、お芝居って難しい。今までやってこなかったから、必死でやっている感じです。とても勉強になりますね。
――今お仕事はどのように決めているのですか?
長澤自分で脚本を読むとか、マネージャーさんがレコメンドしてくれて、おもしろそうだからやってみようとか。マネージャーさんと話し合いながら、いろいろなバランスを見てやっています。自分がやりたいことだけだと、どうしても偏ってきちゃうから、人の意見も聞くように気をつけています。

いい意味で「なるべく適当に」が今の自分ルール

――女優としてのビジョンは、どれくらい先まで見据えていますか?
長澤そんなに先のことまで考えてはいないです。自分の満足できるものを作るのは難しいと思うけど、やっぱりおもしろい作品ができたらいいなって思います。
――仕事をする上で、ご自身の中で決めているルールはありますか?
長澤私は真剣になりすぎて、周りが見えなくなっちゃう方だから“なるべく適当に”っていうのが、最近自分の中ではやっている、マイルール。いい意味での仕事の向き合い方です(笑)。もともと真面目になっちゃうタイプなので、それだとつまらないから。

――30代に向かって、理想的な女優像はお持ちですか?
長澤何もしない人になりたいです。映像の中で、その作品の世界の中で、役として何もしない芝居ができるような女優になりたいですね。昔からずっと憧れていた、理想の形です。

――最後に、女優という仕事の素敵なところを教えてください。
長澤歳をとってもずっとできる、年齢の関係ない仕事だから、いい就職先だなって思っています(笑)。仕事って辞めるのは簡単かもしれませんが、続けていくには“どれだけその仕事を好きか?”が重要だと思うんです。
(文:石村加奈/写真:鈴木かずなり)
【プロフィール】
長澤まさみ
1987年6月3日生まれ、静岡県出身。2000年、12歳(小学6年生)のときに第5回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞し芸能界入り、同年に映画デビュー。03年に映画『ロボコン』で初主演を果たし、翌年公開の『世界の中心で、愛をさけぶ』では、「第28回日本アカデミー賞」最優秀助演女優賞など数々の賞を受賞した。その後も映画『タッチ』、『涙そうそう』、『モテキ』、ドラマ『セーラー服と機関銃』(TBS系)、『優しい時間』、『若者たち2014』(共にフジテレビ系)など話題作で存在感を発揮。今年、『海街diary』で「第39回日本アカデミー賞」優秀助演女優賞を受賞。現在はNHK大河ドラマ『真田丸』でヒロインのきり役を好演している。この秋公開予定の映画『グッドモーニングショー』、『金メダル男』にも出演。
  • (C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

    (C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

『アイアムアヒーロー』
 鈴木英雄(大泉洋)35歳、職業は漫画家アシスタント。彼女とは破局寸前。そんな平凡な毎日がある日突然、終わりを告げる…。謎の感染によって人々が変貌を遂げた生命体“ZQN(ゾキュン)” により、日本は一瞬にしてパニックに陥る。標高の高い場所では感染しない、という情報を頼りに富士山に向かう英雄。その道中で出会った女子高生・比呂美(有村架純)と元看護師・藪(長澤まさみ)と共に、生き残りをかえた極限のサバイバルが始まる。果たして彼らは、生き延びることができるのか!? 累計500万部超を誇る花沢健吾の同名人気コミックが、いよいよ完全実写映画化!
監督:佐藤信介
脚本:野木亜紀子
原作:花沢健吾(小学館『ビッグコミックスピリッツ』連載中)
出演:大泉洋、有村架純、吉沢悠、岡田義徳、片瀬那奈、片桐仁、マキタスポーツ、塚地武雅、徳井優、長澤まさみ ほか
2016年4月23日(土)全国東宝系にて公開 ※R15指定
公式サイト:http://www.iamahero-movie.com/(外部リンク)
dTVでは映画と連動したオリジナルドラマも配信中!
『アイアムアヒーロー はじまりの日』
 長澤まさみ演じる主要キャラクター・藪を主人公にしたオリジナルドラマをdTVで配信。看護師として働く藪はある日の夜勤中、謎のウイルス感染の兆しを目の当たりにする。防犯カメラや、病院に密着する撮影クルーのカメラは一体どんな世界が映っているのか? パンデミック“前夜”の様子を、ドキュメンタリーチックにリアルな映像で描き出す。
2016年4月9日より独占配信中
公式サイト:http://video.dmkt-sp.jp/ft/s0005015(外部リンク)
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