【働きビト】Vol.08 “クズか神”でいい!?堤幸彦が語る「職業・映画監督」

 奇術か霊能力か? 俳優・仲間由紀恵と阿部寛の名コンビが、難事件に挑んできたドラマ『トリック』が、11日公開の映画『トリック劇場版 ラストステージ』で、いよいよ大千秋楽を迎える。深夜枠で2000年に放送がスタートした同作を、14年間にわたって育て、ファンを楽しませ続けてきた監督・堤幸彦(58)にとって、この“終焉”が意味するものとは? エンターテインメント作品を次々に送りだしてきた、堤監督の「仕事への気概」を伺った。
―― いよいよ完結ですが、なぜ14年目にして「終わり」を決められたのですか?
これは、私一人が決めたことではなくて、色んな諸事情というか…この辺りがいい潮時かなと(笑)。みなさんが『トリック』に興味を持っていて、盛り上がっているところで、バスッと終わるのが、潔いのかなということでしょうか。こうして取材を受けるなかで「本当は続くんでしょ?」という質問をよく受けますが、今回で本当に終わりです。

 ただ、私個人の気持ちで言えば、まだまだ続けていたいですよ。この先も、役者さんやスタッフが老人になっても続けていたら、それはそれで面白い。でも、ここで一区切りです。どんなに楽しい学生生活でも、卒業という終わりはやって来るでしょ。切なさも抱えてね。
―― ドラマの初回放送から、SPドラマにスピンオフ、劇場版4作と、長く愛され続けた理由はなんだと思われますか?
ある種のマンネリズムがその愛を呼び込み、続けてこられた源でしょうね。ドラマシリーズの1話目から主要キャラクターの2人の関係性や作品の色はカッチリと決まっていて、時間が経ってもその形を崩さずやってこれた。それが良かったのでしょうね。

 奈緒子と上田(仲間と阿部)が、ブレずに確立されたままだったからこそ、その周りのキャラクターでいくらでも遊べるし、作品の振り幅も広がっていく。現場での思い付きやひらめきを実践して行ける、自由度の高い場所でした。僕にとって「一生、忘れられない作品」になりましたね。

―― 今回の劇場版は、まさに原点回帰と受け取れる作品でしたね。
これは確信犯的です。寸分たがわぬ「原点回帰」にしました。これだけ色んな要素が多い作品でありながら、最後の最後は静かなエンディングのなかでストンと終わる。これが僕なりの見せ場でしたね。劇場でエンドロールが流れて、作品が終わって自分の座席が明るくなる。(静かな余韻が残っているから)その現実に戻される瞬間を、観客が受け入れられないようなラストにしたかったんです。
―― ミステリー、殺人といった要素が主軸でありながら、ここまでコメディに振り切れる作品というのは、当時はとても斬新に感じました。
僕が手掛けた作品の順番を考えると『金田一』(※1)、『ケイゾク』(※2)、そして『トリック』があって、この作品では「笑いの方向に持っていく」のがありかなと思っていたんです。ですから、最初からコメディ路線と決めていましたね。しかもマニアックなネタで行く。珍味なものにしたかった(笑)。

 その一方で、僕の作品のなかには共通点もあります。『ケイゾク』、『トリック』、『SPEC(※3)』の主演の女優さんの服は、一貫してみんなダサくて、衣装替えがほとんどない(笑)。みなさんがあまりにも美しいので、色々やると際限がなくてどこまでも出来ちゃう。だから「ダサきれい」という“枷(かせ)”を付けました。

※1『金田一少年の事件簿』(1995年〜/日本テレビ系/主演・堂本剛) 
※2『ケイゾク』(1999年/TBS系/主演・中谷美紀)
※3『SPEC 〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(2010年〜/TBS系/主演・戸田恵梨香)
―― 1つの作品に向かい続けるなかで、どこか飽きを感じてしまったりすることはないのでしょうか?
気持ちが薄れることは、全くなかったです。この作品は笑いが入って、ミステリーがあって、エンディングが不条理な時やシュールな終わりを迎えることもある。すごく僕の好きな作品のテイストで、好きな構図・パターンでした。

 そこにネタを足していく。往年の笑いを復活させたり、スペシャル版(スピンオフ『警部補 矢部謙三2』)ではケーシー高峰さんに出てもらったり。60年代からの歴代のコメディアンを振り返りながら、「次はだれにしょう?」と延々と考えるのが本当に楽しかった(笑)。

 深夜帯の放送では、このテイストがフィットしたんですよね。その後、ゴールデン枠になっても、このカラーを受け入れてくれたプロデューサーやスタッフに感謝だし、ずっと見守ってくれた視聴者の方々にも、感謝ですよね。

 スタッフ側とお客さん側が組み、“共犯関係”になって育て上げたのが『トリック』。ここまで続けてこられた、大きな要因だと思います。
―― 堤監督の作品には、『トリック』に限らずとてもマニアックなファンの方が多いというイメージです!
確かにそうですけど、受け入れてもらえず、猛烈に否定もされます。お客さんの反応は0か100か。「賛否両論」とは、私の為にあるんじゃないかと思ってます(笑)。それでも「中庸でそこそこの作品」と言われるぐらいなら、“クズか神か”で、いいと。モノ作りは、きっとそんなものじゃないかな。

 ただし。そういう類の仕事も、これが最後かなと感じています。長い時間を掛けてきたレギュラーモノがパタパタと終わったということは、次は“職業・映画監督”として、1人でも多くのお客さまに対して説得力を持つ作品を作っていかなくてはいけないと、思っています。

―― これからの“堤作品”には、大きな変化があるということでしょうか? 『トリック』、『ケイゾク』からの『スペック』を終え、今後の監督の作品は予測がつきません。
作風が変わることは無いかもしれないけど、色々やっていきたいですよね。もういい“おじいさん”の部類に入ってきたんで(笑)。でも、観てくださる方の年齢に関係なく、心に刺さる質の高い作品を作りたいです。それがオリジナルなのか、原作モノなのかは分からないけれど、1作1作を大事にしたいという思いは、変わらないですよ。
―― 堤作品に刺激や衝撃を受けた若いクリエイターの方々は多いと思うのですが、堤監督から若い方へ、アドバイスはありますか?
とんでもないです。素晴らしい人ばっかりで、僕が「勉強させてくれ!」という気持ちでいっぱいです。僕のような、テレビから「商売」として監督を始めた人間から見ると、『PFF』(※4)や自主映画を通過してきた監督の作品には、彼ら個人でしか語れない資質がある。僕は敵わないんです。どうすれば近づけるのかと、東洋を問わず、世界の作品に衝撃を受けます。

―― 監督ほどのキャリアを重ねても、「満足」を感じられることはないんですね。
満足なんか、一回もしたことないです! これが最高傑作ですなんて、言ったこともないですから。もちろん全力で戦っていますし、どの作品にも持てる力を100%注ぎ込んでいます。それでも、世間に出したら「商品」となり、その段階で次を見ないとダメなんです。

 その「次」は、今までに無いものでなくては、ならない。ドキュメンタリーや地方で映画祭をすることも1つのチカラになるし、時間がある限り色々なアプローチを重ねていきます。それを続けていかないと、巧く死ねないです。意志半ばで倒れていった仲間や、先輩のためにも、ちゃんと生きていかないとダメだから。

※4『ぴあフィルムフェスティバル』
【プロフィール】
堤幸彦
演出家、映画監督。ドラマでは『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』
『トリック』などを手掛け、映画では『明日の記憶』『20世紀少年』『SPEC』シリーズなど話題作多数。
  • (C)2014「トリック劇場版 ラストステージ」製作委員会

    (C)2014「トリック劇場版 ラストステージ」製作委員会

映画『トリック劇場版 ラストステージ』
出演:仲間由紀恵、阿部寛/生瀬勝久 野際陽子
  東山紀之/北村一輝・水原希子 ほか
監督:堤幸彦/脚本:蒔田光治
主題歌:「月光」(鬼束ちひろ)
http://www.yamada-ueda.com/movie/(外部リンク)
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