【働きビト】Vol.10 『相棒』を国民的ドラマに導いた「杉下右京の人間力」

 数ある刑事ドラマの中でも、説明不要の人気ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)。ドラマシリーズは今年で14年目を迎え、4月26日公開の映画『相棒-劇場版III 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』で、劇場版は3作目を数える。そこで、ORICON STYLEでは、水谷豊演じる“天才・杉下右京”を生み出した、メイン監督・和泉聖治に制作現場から見る『相棒』の魅力をインタビュー。長年タッグを組んできた水谷の素顔、右京の秘密、また国民的ヒットを確信したその瞬間を伺った。

映画『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』より

映画『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』より

―― ついに相棒も劇場版第3弾公開。初回放送から14年にして国民的ドラマとなりましたが、最初はどのようなスタートでしたか?
和泉以前から親交があった(水谷)豊さんと、初めて一緒に作った2時間ドラマがこの『相棒』でした。あがってきた本(脚本)がもちろん面白いというのもありましたが、とにかく“今までとは違った刑事ドラマ”を作ろうという気持ちでしたね。
 右京さんは言葉遣いも丁寧で言動も紳士的。そんな刑事は、当時は居なかったと思っているんです。放送後、すぐに「この作品は続くよね」と、豊さんと確かめ合いましたね。そこから14年。今はライフワークになりました。

―― 英国紳士さながらの杉下右京は、今までの刑事ドラマにはないキャラクターでした。
和泉スタートするまでは、とにかく「杉下右京」というキャラクターを完成させるまでが、本当に楽しい作業でしたね。スーツは英国調、サスペンダーを着けてみる、眼鏡をかける、髪型はオールバック…。あと、豊さんが「飲み物は紅茶にしましょう」と提案してくれたりしてね。プレシーズン(2000年)の放送が終わって、連ドラ(2002年放送開始)になるころには“杉下右京”が固まっていました。

―― 右京さんといえば「紅茶」。飲み物1つをとっても、キャラを印象づけていますね。
和泉今になって思えば、右京さんをコーヒーじゃなくて紅茶にして正解でしたね。キャラクターを考えていくと、薫ちゃんは「缶コーヒー」。神戸ちゃんはちょっと泡のでる炭酸水。そして甲斐くんは瓶のコーラ。
―― 14年目で右京さんの相棒は3代目。最初の“相棒交代”には本当に驚きました!
和泉くには“永遠のマンネリ”も必要です。でも、この作品に関してはチャレンジをたくさん盛り込んできました。例えば初代相棒は、右京さんと真逆の熱血刑事・亀山薫(寺脇康文)で、2代目は「天才・杉下右京と秀才・神戸尊(及川光博)」のコンビ。このバディもすごく楽しかった。

 そして今の甲斐享(成宮寛貴)は、親子ほど歳の離れた2人です。ドラマ版では、やんちゃで無鉄砲な甲斐君が、天才・杉下のもとでどんどん成長していく過程があって、最終話では親子の確執もきっちり見せることができました。次のクールでは、成長した甲斐君と右京さんとの関係性の変化なども、見せていきたいです。

映画『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』より

映画『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』より

―― 14年間の歴史の中で、杉下右京自身にも変化はあったのでしょうか?
和泉そうですね。すでに放送は300回を超え、いろんな脚本家の方が杉下右京を書いてきました。右京さんは決してブレず、変化しない部分がありますが、もう一方で、右京さんがずっと色あせずにこれたのは、変化があったからだともいえます。

 放送開始当初はとにかく「変わり者」でした。僕も家にいると、ついついテレビの再放送を観ちゃうんですけど(笑)、表情も無く、どこか冷たい印象を周囲に与えていたと思います。その分、とても謎を含んだ人でした。

 それが、今の右京さんには可愛い一面があるんですよね。表情もすごく豊かになって、捜査をしていてもどこか楽しげだったり。絶対的な正義感と天才ぶりは一貫していますけど、その一方ではチャーミングにもなっている。

―― 少し意地悪と思える一言も、どこか楽しんでいる雰囲気がありますよね。
和泉そんな「右京の変化」も含めて、ファンの方が楽しんでくれているのかなと思います。愛すべき一面があって、その変化は決して“変色”ではない。豊さんの計算の範囲内でもあるんでしょうね。マンネリズムと変化の両方の要素があって、いまの右京さんがいるんでしょうね。
―― 水谷さんと右京さんは共通点が多いということでしょうか?
和泉豊さんは、普段から“右京さんそのものだな”と思うことあるんですよ(笑)。例えば、長回しの撮影では、その度に10ページ、15ページという膨大なセリフがあるんですけど、豊さんは正確に覚えてくる。2クールだから、その作業は1日おきだったり、毎日だったりするんですけど、いつも完璧です。現場で昔話なんかをすると、僕が忘れていることでも、すぐに「それは、こうですね」と、ポンっと出てくる。豊さんと話しているのか、右京さんと話しているのか分からなくなります(笑)。頭の回転の速さは右京さんそのものですね。

―― たくさんの演出家、脚本家さんが育ててきた“相棒”ですが、水谷さんだからこそ生まれた右京なんですね。
和泉作り手にとって、それぞれの“相棒ワールド”がみなさんの中にありますよね。脚本が毎回違うというのも、僕にとっては面白いです。その分、様々な理由で撮影が厳しい回もありました。

 そんな時、豊さんも同じ心境を抱えて現場に入ってこられて、お互いにふっと目が合うんですよね。そうすると、豊さんは隣にきて「これも神が与えてた試練ですかね。乗り越えましょう」と、声を掛けてくれるんです。

―― 和泉監督にとっての「相棒」が水谷豊さんでしょうか?
和泉そうともいえますね。僕にとっては、右京さんが長年愛され続ける理由は、豊さんの魅力そのものなんです。生き様だったり、仕事に対する姿勢だったり。僕自身が影響を受けていることもたくさんありますからね。敬服しています。
―― “相棒ファン”の方たちの変化を感じられることはありますか?
和泉昔は年配の方が観てくださるドラマでしたが、最近の撮影現場では、ロゴ入りのスタッフジャンパーを着ていなくても、そこに右京さんがいなくても、若い人や子ども達から「あ! 相棒の撮影だ!!」と、気づいてもらえることがあるんですよ(笑)。『相棒』という作品が、僕らスタッフに染みついて、視聴者の皆さんにも深く浸透してきたんだと思います。

 犬を散歩させているご婦人が、街で豊さんと出会ったら「あら! 右京さんよ。事件かしらね?」と、犬に話しかけたとか(笑)。フィクションだった杉下右京という人物が、どこかリアルな存在として受け入れられているからこそ、幅広い層の方に観てもらえる作品になったんでしょうね。
―― 今後も長く続いていく作品だと思うのですが、“杉下右京の最後”に関する構想はすでにあったりするのでしょうか?
和泉色々探ってますね(笑)。まだまだありませんし、それは僕にも全くわかりません。次のクールも撮影はありますし、僕個人としては、もう1本映画を撮ってみたいという気持ちもあります。

 もし、右京を終わらせるなら、彼を取り巻く謎をすべて解き明かさなければいけない。昔から観てくださっているファンの方にとっては、右京が赴任していたロンドンでの「アリスの謎」もありますからね。

 プライベートな面では、薫ちゃんや享くんには彼女がいましたけど、右京さんは? とか。まだ描かれていない右京さんの謎が、少しずつでも明かされ始めるころには、最終に近づいていくのかもしれないですね(笑)。
【プロフィール】
和泉聖治
1946年9月25日生まれ。72年『赤い空洞』で監督デビュー。
代表作は『オン・ザ・ロード』(82年)、『さらば愛しのやくざ』(90年)、『お日柄もよくご愁傷様』(96年)、『HOME愛しの座敷わらし』(2012年)等。ドラマ『相棒』シリーズ、『相棒 劇場版』シリーズ3作を手掛け、ほかテレビドラマの演出も多数。
  • (C)2014「相棒 劇場版III」パートナーズ

    (C)2014「相棒 劇場版III」パートナーズ

『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』
出演者:水谷豊 成宮寛貴
伊原剛志 釈由美子/及川光博 石坂浩二
脚本:輿水泰弘 音楽:池 頼広 監督:和泉聖治
公式サイト:http://www.aibou-movie.jp/(外部リンク)

【Story】
水谷豊主演の国民的刑事ドラマ『相棒』の劇場版第3作。太平洋に浮かぶ絶海の孤島・鳳凰島で起こった不審死の解明に挑むため、特命係の杉下右京と甲斐享は東京から300キロ離れた現地へ赴く。島内では民間の自衛隊が組まれ、共同生活を送っていた。事件は事故か殺人か? 劇場版ならではの迫力と衝撃で、新たな「相棒」の歴史を刻む。
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