【働きビト】Vol.09 TEAM NACS・戸次重幸が語る“おっさん劇団”の底力

 北海道出身の演劇ユニットといえば、すぐに『TEAM NACS』の5人を思い浮かべる人も多いのでは? 男所帯の同劇団は、日本の最北端で産声をあげ、今や全国公演にしてチケット7万枚が即日完売する人気劇団だ。今回のORICON STYLE“働きビト”では、同劇団のメンバーの中で、最もパワフルな芝居をみせる俳優・戸次重幸に単独インタビュー。間もなく公開となる最新出演作の映画『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』を通じて、医者役を演じることへの思い入れ、そして学生時代から続けてきた劇団への格別の感情を伺った。

  • 東城医大付属病院の救命救急センター部長・速水晃一役の西島秀俊(右)と救命救急医・長谷川崇役の戸次重幸(左)

    東城医大付属病院の救命救急センター部長・速水晃一役の西島秀俊(右)と救命救急医・長谷川崇役の戸次重幸(左)

―― いよいよドラマ版『チーム・バチスタ』が劇場公開。シリーズファイナルを迎えますが、3年ぶりのバチスタの現場はいかがでしたか?
戸次最初にドラマ版のキャストで映画化されると話を聞いた時は「うれしい!」と思いましたけど、同時にFINALの文字に驚きましたね。でも「またみんなで撮れる!」と思うと本当に楽しみで。現場では、“ジェネラル(※)”のメンバーが集まってICUや手術室にいるだけで、昔のままだなと感じました。作品の中でも現実でも時間は経っているけど、懐かしさの方が強かった。チームワークは当時のままでしたね。

―― 医療ドラマならではのセリフや動きの難しさがあったと思いますが、どんな克服法が?
戸次現場では医療指導の先生がついてくださり、やっていること、言っていることの意味のすべてを教えてもらって演技に入るんです。例えば「エピネフリンを1mm投与する」とあれば、それがどんな薬なのか、何のためか。この現場では、キャスト全員が指導の先生の指示を理解したうえで芝居に入ったので、意味が分からずNGとなるようなことは無かったと思います。

―― だからこその、臨場感とリアルさが映像に溢れているんですね。
戸次ありがとうございます。でも、初めて台本をいただいた段階では、読んでも「なんの事だか、さっぱり分からん」と、毎回思っていました(笑)。

※『チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋』(2010年放送/フジテレビ系)
―― 今回の劇場版もですが、医療ドラマで避けて通れないのが「人の生死」。演じられる時に、そのテーマの重さを感じられることはありますか?
戸次僕個人として、医者役に思い入れはあります。3年前に母親を病気で亡くした僕にとって、「大学病院」といえば「一度入ったら、戻ってこれない場所」。大きな大学病院に対してホスピスに近いイメージを持っているんです。

 でも、この作品で僕が演じた長谷川は、大学病院の“救命救急チーム”に勤めて、日々、人の生き死にと向き合い苦悩する1人の医師でした。瀕死の患者と向き合うたびに「絶対に生かして返す」という強い想いを持って治療に臨んでいく。目の前の患者を「生かしてここから送り出したい」という使命感を、僕は長谷川先生と共有してきました。

―― この作品は、戸次さんに「冷静」「切れ者」というイメージを定着させた作品ともいえるのでは?
戸次そうかもしれないですね。当時は何本か連ドラに出させていただいてましたが、オープニングで自分の顔をポンって抜いてもらえたのは、「バチスタ」が初めて。すごくうれしかったのを覚えていますし、未だにプロフィール欄にもこの作品を書かせてもらっているぐらい、僕にとっては大切な作品です。だからこそ、このキャストでの映画化はなおさらうれしい事でした。
―― 戸次さんといえば演じるだけでなく脚本家に小説家、さらに2月に大千秋楽を迎えた一人舞台『ONE』と、精力的な活動が続いていらっしゃいますが、常にパワフルに仕事をこなすモチベーションは、どこにあるのでしょうか?
戸次いやー、もう燃え尽き症候群です…なんて、嘘ですよ(笑)。オフも終わって、もう仕事モードへのスイッチの切り替えは完了しています。僕は「働く人」と書いて「にんげん」と読むというのが持論なんですね。人間、生まれたからには働かなくちゃいけない。物理的にお金を稼ぐ労働や、主婦の方のように家の中を守る仕事など、男女を問わず「働く」という意識が必要不可欠だと思っています。

 一方で、休息も必要ですよね。「いい仕事するには、いいお休みが必要」。そのバランスが取れていたら、死ぬ時に「いい人生だったな〜」と思えるはずなんです。そのためにも労働は基本。僕はまだ結婚していませんけど、これで結婚したら、より働かなきゃいけないという意識は強まっていくんでしょうね、男だし。
―― プライベートが変わればお仕事も変わる。それでも独身でいらっしゃる理由は?
戸次それは…人間的に問題があるんですかね? 大目にみてください(笑)。

―― とんでもないです! ナックス(※演劇ユニット『TEAM NACS』)での活動をはじめ、長く同じ職業を続けていると、テンションが下がってしまうことはないですか?
戸次うーん…決して格好いいことを言おう! っていうわけじゃないんですけどね。僕らの劇団は、本当にファンの方々が熱いんです。今は“日本で一番チケットが取りづらい劇団”なんて呼んでもえらるようになりましたけど、そこに至るまでには、1回の公演ごとに必死で電話を掛けてくれるファンがいてくれたから。それこそ見たことはないですが鬼の形相なのかもしれない(笑)。そうやって劇場に来て下さるお客さんの熱意がある限り、僕らはその期待を裏切れないんです。絶対に。
―― 期待に応えたい気持ちがあれば、モチベーションが下がることはない?
戸次うちは男5人組なんで、女性のファンが多いんですけど、彼女たちを飽きさせないために、常に新しい「出し物」を提供していかなければならない。映画やドラマももちろんですけど、やっぱり生で僕らを観てもらえる“舞台”が一番喜んでもらえる出し物だと感じています。だから、それを続けていかなくちゃいけないんです。誤解を恐れずに言えば、強迫観念のようなものが僕にはあります(笑)。

 その義務を果たすためには、事務所が持ってきてくれる仕事だけに甘んじてちゃいけないんです。僕ら発信での“何か”を作り続け、事務所のバックアップがあって形にしていく。我々も今やアラフォーの“おっさん劇団”ですからね(笑)。この繰り返しを止めれば、飽きられてしまうのかもしれない。

―― ファンのために新しい作品を送り続ける。その思いこそが、戸次さんの原動力でしょうか?
戸次仕事へのテンションを保つためには、そういった思いを常に抱えていることが大切ですよね。ここまで長く劇団を続けてこられたのは、ファンの方の入れ替わりはあるんでしょうけど、やっぱり中核で支えてくれてきた人達がいてくれたから。僕が今、映像でも仕事ができているのは、この人達のお陰なんです。今までついて来てくれたファンと、これからもずっと一緒に年月を重ねていきたいと思ってます。
―― ナックスを離れ、単独のお仕事がさらに増えても、その部分は変わらないのでしょうか?
戸次まだまだ僕なんて「TEAM NACSの戸次重幸」で仕事をいただいていると思うし、僕は死ぬまでそれでいいと思っています。例えば、志村けんさん、加藤茶さんという名前を聞けば、誰もが「ドリフターズ」という看板を連想するでしょ? リアルタイムで観ていない世代でも。あんな風に、名前につく枕詞がいつまでもTEAM NACSであったなら、こんなに幸せなことはないんです。

 だから、この仕事を選んだ限りは、働くことに対してテンションが下がるなんてことは無いです。今後はメンバー全員が個人個人でより広く知ってもらえるようになって、“ナックス”の名前をもっと浸透させたい。この先も、ずーっとこの思いが続くんでしょうね。キレイ事じゃなく、素直にそう思っています。


 2008年から計4回放送された“バチスタ”TVシリーズだが、惜しまれながらも今回の劇場版で完結。同シリーズのなかでも、随一の人気作となったのが戸次がレギュラー出演した『ジェネラル』だ。しかし、今後、スピンオフ作(続編)として『長谷川先生の回』があるなら? と尋ねると、「何を言っているんですか、おこがましいです(笑)」と一蹴されてしまった。インタビューの最後には「僕、真面目な話で恰好つけようとはしてませんからね」と、照れ笑い。その後の撮影では、『バチスタ』のポスターと横並びになって「さぁ、誰の物真似をしましょうか? まずは栗山(千明)さんから」と、自ら物真似を披露するなど、真剣な表情を見せたかと思うと、すぐに冗談で現場の雰囲気を和らげる心遣いに、ナックスが愛され続ける理由の一端を垣間みることができた。
【プロフィール】
戸次重幸
俳優。演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーで、北海道では大泉洋とのレギュラー番組「おにぎりあたためますか」、ナックス全員参加の「ハナタレナックス」(ともにHTB)に出演中。ドラマでは08年「33分探偵」シリーズ、舞台「趣味の部屋」(13年)など話題作に出演。自身初の原作執筆も手掛けた一人舞台『ONE』では脚本・演出も務めた。
  • (C)2014 映画「ケルベロスの肖像」製作委員会

    (C)2014 映画「ケルベロスの肖像」製作委員会

映画『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』
出演者:伊藤淳史 仲村トオル 桐谷美玲 松坂桃李
    西島秀俊 戸次重幸、他
原作:海堂尊『ケルベロスの肖像』(宝島社刊)
監督:星野和成/脚本:後藤法子
http://batista-movie.jp/(外部リンク)

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