【働きビト】Vol.05 “ドラマの定石”完全無視! 脚本家・古沢良太の仕事論

 堺雅人主演のフジテレビ系ドラマ『リーガルハイ』が、10月9日より連続ドラマで復活する。そこで、転職サイト・ORICON STYLE“Career”では、「正義は金で買える」とこれまでの弁護士像を打ち砕き、拝金主義者にして超のつく性悪弁護士・古美門研介を生みだした、脚本家・古沢良太にインタビュー。作品ごとに“これまでのお約束”を打ち破ってきた人気脚本家が語る、仕事の本質とは?
 古沢は2002年に『21世紀新人シナリオ大賞』でグランプリを獲得し、受賞作『アシ!』でデビュー。以降、初の映画作品『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)が同年の国内の映画賞を総なめにし、連ドラでの初のオリジナル作品『ゴンゾウ 伝説の刑事』(テレビ朝日/08年)は、向田邦子賞を受賞。このほか、ドラマ『相棒』(テレビ朝日)に『鈴木先生』(テレビ東京)、映画では『キサラギ』、『少年H』など、刑事ドラマに学園もの、人間ドラマ、さらに密室劇など、幅広い作品のジャンルを手掛け注目を集めてきた。

 しかし、「(受賞作を)投稿した頃も、脚本家として仕事を始めた頃も自信はありませんでした。最初はこんな大変な仕事はずっと続けられないと思っていたし、すぐに仕事も来なくなるだろうって…」と、難関『シナリオ大賞』の狭き門をくぐりぬけたとは思えない、かなり後ろ向きだった胸の内を吐露。「あとは、脚本家なんかで終わるものか! とも思っていました」と笑う。

 いまや脚本家としてゆるぎない地位を得たように見えるが、「いつ仕事がなくなるかは分からないけど、なるべく脚本の仕事をがんばっていこうと思っています」と、冗談とも本気ともつかない言葉が返ってきた。
 多くの脚本家は“このジャンルが強い”といったお家芸があるものだが、古沢はどのジャンルでも観る側の記憶に残る秀作を生み出してきた。「原作があるならその世界観に沿った作品を書くし、一方で、めちゃくちゃな世界観を作ろうとなれば、思い切り書きます。脚本家という仕事は、自分の趣味思考を表現する仕事ではなく、その時々に求められている作品をきちんと書くこと。それが大前提としてできなきゃいけない」と、脚本家の仕事の本質を語る。

 ここ数年、新人脚本家はある程度の信頼をテレビ屋たちから得られるまで、原作モノを手掛けて経験値を上げ、成果が表れればオリジナル作品を持てるというのが正規ルート。古沢も同じくいくつかの原作モノを扱ってきたが、「僕はオリジナルをやれるようになってからこの仕事が楽しくなった」と断言。その言葉通り、『ALWAYS〜』シリーズをはじめ、どれも原作の世界観を踏襲しながら、オリジナルに近い形で作品を送り出してきた。

 「オリジナルにこだわらない脚本家の方もいらっしゃるでしょうけど、僕はオリジナルを書いている時が一番楽しい。時間と気持ちを費やしていると言えます」と、それまでの淡々とした口調から一転、語気を強める。

 では、今後は一切原作モノを手がけないのかと問えば、答えはNO。脚本家としてのモチベーションは「面白い物を作りたい。ほとんどそれだけですね。書いたり作ったりしている時間が好きで、仕事をする時間そのものがモチベーションという感じもしています。あとは、人に喜んでもらいたい! それが快感ですね。すっごい褒められたいですから」と豪快に笑う。

 古沢にとって、初の“弁護士モノ”となった『リーガルハイ』。昨年の1stシーズンでは放送が始まるや否や話題を集め、離婚問題から大手ゼネコンを相手取った日照権裁判に、SPドラマでは学校でのいじめ問題まで、あらゆる訴訟案件が用いられた。

 「最初にコメディをやろうというのは決まっていましたが、そのほかは何も決まっていなかった」という同作。特筆すべきは過去の弁護士ドラマの“お約束”が一切登場しない点ではないだろうか。法廷で弁護士が殺人事件を解決しないし、人情派弁護士がトラブルシューターとして市井の人々を救うわけでもない。主人公の古美門は、「金こそ正義」を掲げる偏屈極まりない切れ者だ。

 「とにかくネチネチした嫌味なキャラクターにしようと思いました」と語る古沢の意図に寄り添うように、演じる側の堺は“早口”という武器を用いて、さらに古美門を強烈キャラに。これに応えるように、「堺さんが思っていたよりもずいぶん早口で演じられたので、(ドラマの)後半は古美門のセリフ量がかなり増えていきました」と、テレビの裏側では俳優と脚本家の意外な攻防戦が繰り広げられていたようだ。

 古美門は定番の決めセリフこそ持たないが、回を重ねるごとに“毒舌ぶり”は加速。どんな短いシーンにも、古沢が仕掛けた毒が散りばめられている。「(著作権で)ねずみの国がどれだけ稼いでいると思っているんだ?」、「正義は少年ジャンプの中にしかないと思え!」などなど、パンチの効いた台詞は、観る側にある種のカタルシスさえも、もたらした。

 劇中、古美門に弁護士としてのスタンダードな良心が芽生えることはなく最終回へ。この作品で古沢は「主人公とは物語の中で心身ともに成長しなければならない」というセオリーを完全無視。新たなヒーロー像を生み出した。

 しかし、「古美門のあのキャラクターには、書いている僕自身も困らされることもあるんですよ」と思いもよらない一言が漏れた。

 「例えば、普通のキャラクターであればサラっとした台詞のやり取りで済むシーンでも“古美門だからなぁ”と、いちいちひねくれた表現を捻り出しています。なんでこのシーンでこんなに時間がかかるんだ!って、毎回苦しみながら書きます」と、“古美門節”は生みの親の手をも煩わせているようだ。

 同作は、古美門に勝訴をもたらすキーマンとなる熱血弁護士・黛真知子役の新垣結衣、料理から書道に音楽、家庭菜園にモンゴル相撲までたしなむ事務員・服部役の里見浩太朗ら、共演者も個性派ぞろい。ライバル役・三木長一郎には以前『やさぐれぱんだ』で堺とタッグを組んだ生瀬勝久が登板し大物弁護士を熱演。どの登場人物も目が離せなくなるほど強い個性を放つ。

 キャラクターの発想の秘訣を伺うと「たまに『人間を観察しているんですか?』とか聞かれるんですけど、そんなつもりもないんです」とバッサリ。「脚本家としては、どんな小さい役でも、まず俳優さんがん演じてみたくなる役にすることが大切です。そうすることで、意外といい役者さんが演じてくださったりして。結果作品にとって良い形で還元される。そういう考え方が大事だと思います」。

 時に傍聴席で、パンクロッカーが「法廷という虚構の檻の中でぇ♪」とギターをかき鳴らし、拍手禁止の法廷内で、両腕を高々に振り上げ大拍手。“よくぞここまで掟破りを”と、視聴者側から拍手喝采が聞こえてきそうだが、キャスト陣や制作サイドからストップがかかることは無かったのだろうか?

 「この作品に関しては無かったですね。こんなことをやらせたら面白いとかはありましたけど。あとは、書いて怒られたら止めればいいだけだし、取りあえずは書きます」といたずらっぽく笑う。「ただ、弁護士の先生には怒られながらでしたけどね(笑)。もうやれるだけやろうと」。
 新シーズンでは、いよいよ弁護士としての正義感、人間としての誠実さなど、古美門の新しい一面がみられるのかと期待が高まるが「新しい一面は…もしかしたら出てこないかもしれないですね。毒っ気もさらに強まりといったところです」と含み笑い。「続編の話が決まったときは、“もうネタないなぁ”なんて思いながら始めたんですけど、書き始めたら思いのほかありましたね」と余裕の表情を浮かべる。

 ちなみに、劇中では新米弁護士・黛の情熱一直線な人柄を、古美門は「朝ドラのヒロインみたいな奴だな」と揶揄することも度々だったが、今後朝ドラの仕事が来た場合は「なんでも書きますよ(笑)。朝ドラでも大河でも」と、古美門さながらの不適発言(?)も飛び出した。

 最後に、今後の展望を伺うと「とにかくおもしろい物もダメな物も、たくさん書いて全部使い果たして死にたいと思います。どこかで区切りをつけて、余生をのんびり過ごすとかじゃなくて、もう空っぽになるまで書き切って、死ねたらいい。目指していた“なりたかった脚本家”には、もうなれたと思っているので、なるべくたくさんの作品を書いて死ねたらいいかな」。

 ドラマ『リーガルハイ』は10月9日(水)午後10時より放送スタート。新レギュラーの岡田将生、小雪、黒木華らを迎え、初回放送には松平健の出演が決定しており、キャリア初の検事役でドラマを盛り立てる。
【プロフィール】
脚本家 古沢良太
2002年に『21世紀新人シナリオ大賞』(テレビ朝日主催)でグランプリ。受賞作『アシ!』でデビュー。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズを始め、ドラマ『ゴンゾウ』、『リーガルハイ』など話題作多数。
ドラマ『リーガルハイ』
出演:堺雅人、新垣結衣、岡田将生、小雪、田口淳之介、黒木華、
古舘寛治、生瀬勝久、小池栄子、里見浩太朗
脚本:古沢良太/音楽:林ゆうき/
監督:石川淳一、城宝秀則、西坂瑞城

■公式HP:http://www.fujitv.co.jp/legal-high/index.html(外部リンク)
(毎週水曜/夜10時〜/フジテレビ系)
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