【働きビト】Vol.05 “ドラマの定石”完全無視! 脚本家・古沢良太の仕事論
しかし、「(受賞作を)投稿した頃も、脚本家として仕事を始めた頃も自信はありませんでした。最初はこんな大変な仕事はずっと続けられないと思っていたし、すぐに仕事も来なくなるだろうって…」と、難関『シナリオ大賞』の狭き門をくぐりぬけたとは思えない、かなり後ろ向きだった胸の内を吐露。「あとは、脚本家なんかで終わるものか! とも思っていました」と笑う。
いまや脚本家としてゆるぎない地位を得たように見えるが、「いつ仕事がなくなるかは分からないけど、なるべく脚本の仕事をがんばっていこうと思っています」と、冗談とも本気ともつかない言葉が返ってきた。
ここ数年、新人脚本家はある程度の信頼をテレビ屋たちから得られるまで、原作モノを手掛けて経験値を上げ、成果が表れればオリジナル作品を持てるというのが正規ルート。古沢も同じくいくつかの原作モノを扱ってきたが、「僕はオリジナルをやれるようになってからこの仕事が楽しくなった」と断言。その言葉通り、『ALWAYS〜』シリーズをはじめ、どれも原作の世界観を踏襲しながら、オリジナルに近い形で作品を送り出してきた。
「オリジナルにこだわらない脚本家の方もいらっしゃるでしょうけど、僕はオリジナルを書いている時が一番楽しい。時間と気持ちを費やしていると言えます」と、それまでの淡々とした口調から一転、語気を強める。
では、今後は一切原作モノを手がけないのかと問えば、答えはNO。脚本家としてのモチベーションは「面白い物を作りたい。ほとんどそれだけですね。書いたり作ったりしている時間が好きで、仕事をする時間そのものがモチベーションという感じもしています。あとは、人に喜んでもらいたい! それが快感ですね。すっごい褒められたいですから」と豪快に笑う。
「最初にコメディをやろうというのは決まっていましたが、そのほかは何も決まっていなかった」という同作。特筆すべきは過去の弁護士ドラマの“お約束”が一切登場しない点ではないだろうか。法廷で弁護士が殺人事件を解決しないし、人情派弁護士がトラブルシューターとして市井の人々を救うわけでもない。主人公の古美門は、「金こそ正義」を掲げる偏屈極まりない切れ者だ。
「とにかくネチネチした嫌味なキャラクターにしようと思いました」と語る古沢の意図に寄り添うように、演じる側の堺は“早口”という武器を用いて、さらに古美門を強烈キャラに。これに応えるように、「堺さんが思っていたよりもずいぶん早口で演じられたので、(ドラマの)後半は古美門のセリフ量がかなり増えていきました」と、テレビの裏側では俳優と脚本家の意外な攻防戦が繰り広げられていたようだ。
劇中、古美門に弁護士としてのスタンダードな良心が芽生えることはなく最終回へ。この作品で古沢は「主人公とは物語の中で心身ともに成長しなければならない」というセオリーを完全無視。新たなヒーロー像を生み出した。
しかし、「古美門のあのキャラクターには、書いている僕自身も困らされることもあるんですよ」と思いもよらない一言が漏れた。
「例えば、普通のキャラクターであればサラっとした台詞のやり取りで済むシーンでも“古美門だからなぁ”と、いちいちひねくれた表現を捻り出しています。なんでこのシーンでこんなに時間がかかるんだ!って、毎回苦しみながら書きます」と、“古美門節”は生みの親の手をも煩わせているようだ。
キャラクターの発想の秘訣を伺うと「たまに『人間を観察しているんですか?』とか聞かれるんですけど、そんなつもりもないんです」とバッサリ。「脚本家としては、どんな小さい役でも、まず俳優さんがん演じてみたくなる役にすることが大切です。そうすることで、意外といい役者さんが演じてくださったりして。結果作品にとって良い形で還元される。そういう考え方が大事だと思います」。
時に傍聴席で、パンクロッカーが「法廷という虚構の檻の中でぇ♪」とギターをかき鳴らし、拍手禁止の法廷内で、両腕を高々に振り上げ大拍手。“よくぞここまで掟破りを”と、視聴者側から拍手喝采が聞こえてきそうだが、キャスト陣や制作サイドからストップがかかることは無かったのだろうか?
「この作品に関しては無かったですね。こんなことをやらせたら面白いとかはありましたけど。あとは、書いて怒られたら止めればいいだけだし、取りあえずは書きます」といたずらっぽく笑う。「ただ、弁護士の先生には怒られながらでしたけどね(笑)。もうやれるだけやろうと」。
ちなみに、劇中では新米弁護士・黛の情熱一直線な人柄を、古美門は「朝ドラのヒロインみたいな奴だな」と揶揄することも度々だったが、今後朝ドラの仕事が来た場合は「なんでも書きますよ(笑)。朝ドラでも大河でも」と、古美門さながらの不適発言(?)も飛び出した。
最後に、今後の展望を伺うと「とにかくおもしろい物もダメな物も、たくさん書いて全部使い果たして死にたいと思います。どこかで区切りをつけて、余生をのんびり過ごすとかじゃなくて、もう空っぽになるまで書き切って、死ねたらいい。目指していた“なりたかった脚本家”には、もうなれたと思っているので、なるべくたくさんの作品を書いて死ねたらいいかな」。
ドラマ『リーガルハイ』は10月9日(水)午後10時より放送スタート。新レギュラーの岡田将生、小雪、黒木華らを迎え、初回放送には松平健の出演が決定しており、キャリア初の検事役でドラマを盛り立てる。
【プロフィール】
脚本家 古沢良太
2002年に『21世紀新人シナリオ大賞』(テレビ朝日主催)でグランプリ。受賞作『アシ!』でデビュー。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズを始め、ドラマ『ゴンゾウ』、『リーガルハイ』など話題作多数。
脚本家 古沢良太
2002年に『21世紀新人シナリオ大賞』(テレビ朝日主催)でグランプリ。受賞作『アシ!』でデビュー。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズを始め、ドラマ『ゴンゾウ』、『リーガルハイ』など話題作多数。
出演:堺雅人、新垣結衣、岡田将生、小雪、田口淳之介、黒木華、
古舘寛治、生瀬勝久、小池栄子、里見浩太朗
脚本:古沢良太/音楽:林ゆうき/
監督:石川淳一、城宝秀則、西坂瑞城
■公式HP:http://www.fujitv.co.jp/legal-high/index.html(外部リンク)
(毎週水曜/夜10時〜/フジテレビ系)