2015年07月10日 08時40分
【前編】嬉野Dが明かす『水どう』秘話「半年で終了予定だった」
嬉野Dが語る、半年で終了予定だった北海道ローカル番組が、全国区になった理由とは? (C)oricon ME inc.
1996年に北海道の深夜ローカル番組としてスタートし、今なお全国に熱狂的なファンを持つバラエティ『水曜どうでしょう』を、放送開始からカメラに収めてきた嬉野雅道ディクレクターが、今月17日に初の単独著書『ひらあやまり』(KADOKAWA刊)を発売する。そこで、嬉野氏に同番組の始まりや当時無名だった大泉洋の起用、また旅企画がメインになった理由などをインタビュー。最も視聴者に近い目線で観続けてきた“嬉野流どうでしょう”に見る、嘘をつかない仕事論とは。
■ただの“繋ぎ”番組に期待値はゼロ!? 半年で打ち切りの予定だった
―― 開始当初、『どうでしょう』はどれぐらいのクールを予定されていたのでしょう?
【嬉野】 きっと…半年だったんじゃないかな。『どうでしょう』が始まる前の番組は、若いスタッフ(僕も藤やんも若かったんです)が集まってすごく自由に作っていてね、若い視聴者には人気があったけど、一部の大人の皆さんからは「あまりにもひどい」とお叱りも受けていてね(笑)。そこで、会社としては、一番有望視されていたディレクターを半年間、東京のテレビ局に修行に出すから戻ってきたらそのエースにもっとしっかりした新番組を制作させる予定だったんだろうね。だからその半年間を埋める役割を担ったのが、当時中継とかまったくできなかった藤やん(チーフディレクター・藤村忠寿氏)と僕で、その2人が作ったのが『水曜どうでしょう』っていう(笑)。
―― それは……誤解を恐れずに言えば“半年間のつなぎ”という役割でしょうか?
【嬉野】 完璧な繋ぎだよね!(爆笑)。僕がHTB(北海道テレビ)に来て半年後に『どうでしょう』って始まったけど、どの部署からも期待なんてされていなかったものね。でも、予定していた半年が終わる前に妙に人気が出ちゃったもんだから、続行ってことになったんだね。それで20年(笑)。
―― では、最初にキャスティングを大泉さんと鈴井(貴之)さんに決めた理由は?
【嬉野】 やっぱり当時から札幌で番組を作る際には、メインを張る存在だったミスター(鈴井)の起用は必須でしたね、それと、藤やんとしては、大泉君を「あいつ面白いんだよ!使いたいんだよ!」と強く推していたね。
―― 4人のメンバーが揃い、放送を重ねる中で、なぜ旅企画をメインに据えたのでしょうか?
【嬉野】 僕も藤やんも、ディレクター2人の出身が道外だったから「北海道を出たいよね」という気持ちがお互いあった。ミスターは「大阪から西に行ったことない」って言うし、大泉くんに関しては「新幹線に乗ったことがない」とかいうから。だったら北海道ローカルだけど、僕らは、どんどん海峡を越えたいという気持ちが湧いて「ああ、テレビって、行きたいところへ行けるんだ」っていうワクワク感もあったよね。
■最大の魅力は、スタッフのずさんさが“物語”に組み込まれていく瞬間
―― なるほど。ただ、旅のバラエティ番組は全国あまた存在しますが、スタッフの方がこんなにも全面に出るのは、テレビ業界では禁じ手という印象がありました。
【嬉野】 まぁ、藤やんも映っちゃいないけど、完璧、出てるよね(笑)。でもね「これから自分のやりたいことをやります!」ってディレクターが番組の中で声に出してタレントに言うのって「責任の所在は私にあります!」って宣言してるってことだからね、そのあとみんなが、彼の準備不足でひどい目にあったとしても、そのときは、その責任者を全員で糾弾すれば別の意味で面白くなる。番組的には企画の展開がどっちへ転んでもおもしろくなるっていうね(笑)。だから、タブーに踏み込むという感覚は当時の僕らには全くなかった。
僕の場合はね、アフリカのとき、撮影のために吟味して買ったカメラが、予想よりも望遠(機能)ができないことを現場で知ってね(笑)。野生動物をアップで撮りたいのに妙に寄り足らない中途半端に広いサイズにしかならない…。普通なら、それらはスタッフの失態になるけど、『どうでしょう』の場合は、現場で大泉君がその失態に的確につっこんでくるから、僕らディレクターのずさんさが、考えの足りないおっさんたちという笑うべきキャラクターになって「物語」に組み込まれていくんだよね。
ずさんさを狙ったことなんて一度もないんだけど、コレがベストだ!と出してきた大人2人の考えが、なぜか一番ひどかったっていう(爆笑)。そのひどさを(学生の)大泉君が的確に指摘してくるから、カメラが回っている前で大人が赤恥をかいていく……だから一方ではそういうスタッフの人間性も番組の持ち味になって非常に面白かったね(笑)。
著書『ひらあやまり』(KADOKAWA刊)は7月17日発売。どうでしょう班の名スタイリスト・小松江里子氏による全8頁の巻頭グラビアから始まり、全264頁にわたって、50代男のささやかな日常に隠れた、小さなドラマを集めたエッセイ集。
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