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“ブラックバイト”を淘汰する? 採用課金型アルバイトサイトの新しい取り組み

 内閣府は2018年3月、人手不足感を表す代表的な指標である「全国企業短観経済観測調査」(日本銀行)を基に、中小企業を中心に人手不足感がバブル期並みの水準になっていることを発表した。その後も即戦力として期待されているアルバイト・パートは、売り手市場が続いている。採用競争を背景に賃金等条件の良い求人も増えているように思えるが、実際はどうなのだろうか。現在のアルバイト・パートを取り巻く環境と課題、今後の展望を探った。

■非正規雇用は増加傾向 一方で問題点も浮き彫りに

 人手不足問題が叫ばれて久しいが、総務省統計局の2018年労働力調査(2019年2月15日公表)によると、役員を除く雇用者5596万人のうち、正規の職員・従業員は前年に比べ53万人増加し3476万人、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトなど非正規の職員・従業員数は84万人増加し2120万人と、労働力人口は増加傾向にある。なかでも、パート・アルバイトは前年比でプラス76万人の1490万人と、大幅な増加率を示している。

 オリコン顧客満足度ランキング「アルバイト情報サイト」総合1位のマッハバイトのブランディングを担当する桂大介氏は、この現状を踏まえたうえで、今後のアルバイト市場の課題をこう予測する。

 「今後、非正規雇用はますます増えることでしょう。となると、バイトだから、パートだからという理由でこれまで見逃されてきたさまざまな課題が本格的に表に出てくると思います。正規雇用か非正規雇用かは、単純に雇用期間や、フルタイムかパートタイムかといった雇用形態だけの問題です。有給休暇などの正社員に与えられている権利はバイトにも認められるべきだし、同じ仕事をしていたら、当然、同じ給料が支払われるべきです。きちんと本質的な課題に向き合って改善していかなければいけない。問題は山ほどあると思っています」

話を伺った株式会社リブセンス アルバイト事業部ブランディンググループ責任者・桂大介氏

話を伺った株式会社リブセンス アルバイト事業部ブランディンググループ責任者・桂大介氏

■人材の流動性を高め、労働環境の改善につなげる

 マッハバイトは、2006年発足のジョブセンスが前身のサービスだ。掲載課金型がほとんどだったアルバイト求人サイトにおいて、求人の掲載は無料にし、採用に至った場合のみ手数料をとる採用課金型を導入。採用が決まった求職者にお祝い金を支給するという新しいビジネスモデルを構築した。

 さらに、2017年9月には名称をマッハバイトに変更し、サイトの使いやすさや応募から採用決定までの速さ、お祝い金支給の速さなど徹底したスピードアップに取り組んできた。サイト名の「マッハ」にはそのスピード感が込められているのだが、“スピード”をブランドコンセプトにした背景には、前述のようなバイトを取り巻く問題を改善したいという目的があった。

"スピード感"をコンセプトに、「神マッハバイト」キャンペーンも展開(提供:株式会社リブセンス)

 「ノルマ、遅刻罰金、長時間労働、ワンオペなど、労働基準法違反の現場は今もまだたくさんありますが、ブラックな職場が残り続けている理由は、そこに働き続けている人がいるからです。とはいえ、生活にはお金が必要ですから、簡単に『嫌なら辞めればいいじゃないか』とは言えません。バイトの場合、辞めるのが大変、次のバイトを探すのが大変というのが最大の課題ですからね」

 「それに、バイトはできればやりたくないし、バイト探しはもっとしたくないというのが多くの人の本音です。ですから、マッハバイトでは、移行期間の給与補填まではいかないけれど、ある程度、金銭的に保証されるというシステムを普及させることで、皆が良い職に早くつけるよう状況を変えていきたいと考えました。流動性が高まれば、劣悪な労働環境も自然淘汰できるのではないかと思っています」

■“成果報酬型”だからこそ実現できた取り組み

独自のビジネスモデルである”成功報酬型”サービス(提供:株式会社リブセンス)

独自のビジネスモデルである”成功報酬型”サービス(提供:株式会社リブセンス)

 この取り組みの実現には、同社の“採用課金型”というビジネスモデルがあるところが大きい。

 「掲載課金型の場合、たいてい応募数にコミットして販売していますので、応募までしかデータを取りませんが、採用課金型である僕らにとっては、応募したあと、採用されたかどうかがもっとも重要です。ですから、その特徴を活かして、応募から採用、初勤務までの短縮に力を注ぎ、さらにその後もユーザーとコミュニケーションをとることで、リピート率を高め、バイトの劣悪環境の改善にも役立てたいと思っています」

 人手不足による売り手市場はまだまだ続く。それは裏を返せば、求職者にとって、選択肢が広がり、良い職場が選べるということ。「最近はアルバイトに正社員と同じ待遇を採用する企業も出てきている」と桂氏は語る。自分の好きなときに働きたい、または自由に働きたいという希望を持つ人や、定年退職後も働きたい人、働きながら大学生活に必要なお金や小遣いを稼ぎたい学生などにとって、良い環境になりつつあるといえるだろう。

 正規社員がメインで、アルバイトやパートは補助という考え方は前時代的、令和はアルバイトやパートが正社員の働き方に近づく時代になるのかもしれない。

(文・河上いつ子)

プロフィール
株式会社リブセンス アルバイト事業部ブランディンググループ責任者 
桂 大介(かつら だいすけ)

高校生の時から個人事業主としてシステムの受託開発を始め、早稲田大学入学後の2006年に代表村上らとリブセンスを共同創業。創業後は取締役として経営を行う傍ら、開発、人事、マーケティングなど様々な部門を歴任。2017年に取締役を退任し、社外にも活動の幅を広げる。